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砂糖と左党。
幸せはデザートまでしっかり食べること。とはいえ寄る年波には勝てず、晩ごはんは甘いものを省いてしまうことが増えてきた。それでも、その魅力には抗えないと思うデザートがある。〈アヒルストア〉がタルトタタンを焼き始める季節になると、1人前を半分に分けてもらってカミさんと二人で食べる。「アヒルのデザートを食べるともう1杯ワインをおかわりしたくなる」と言ったのは友人のショウちゃんだが、本当にそのとおりで、思わず赤ワインを頼みそうになってしまう。アヒルにはもうひとつ、無花果のコンポートという、もうアテとして考えたとしか思えない逸品もある。
10年ほど前だったろうか、友人に連れられて奄美大島にはじめて行った時、その友人の友人が自宅で宴会を開いてくれた。当然のながら酒はすべて黒糖焼酎。ちょうどパッションフルーツの季節で、それまでは果肉と種子が渾然一体となったどろどろした感じが苦手で敬遠していた果物だったのだが、ご主人が二つに割ったパッションフルーツに黒糖焼酎を注ぐ。「こうして食べるのが格別」と言いながら手渡してくれた。手にとってしまったのだから「実は苦手で」と差戻すのは失礼だ。スプーンですくって口に入れたら、たしかに格別だった。あの夜、ぼくはいったいどれだけのパッションフルーツを食べただろう。すべてに水などで割っていない黒糖焼酎が入っているのだから、しこたま酔っぱらってしまった。宴の最後には、奥様お手製のチョコレートブラウニーが出てきた。その後にコーヒーかお茶が出てくるのかなと思い、手をつけずに待っていると、ご主人は黒糖焼酎を飲み続けながらそのチョコレートブラウニーを食べ始め、ぼくのほうを向いてどうして手をつけないのかというような顔をする。半信半疑でチョコレートブラウニーをアテに黒糖焼酎を飲んでみて目をむいた。この組み合わせは、あれ以来いまだできていないけれど、いつかまた絶対に試してみたい。
先日、尾道の〈ビズー〉というワイン食堂で頼んだレモンタルトも、そういう類のデザートだった。ワインをすべて飲み終えていなかったから、レモンタルトを食べながら広島の葡萄を使った白ワインを飲んだ。絶品だった。つまり、酒と寄り添う甘いものに共通するのは、それをつくった人が酒飲みであることが多いということだろうか。
札幌で営業職をしていた頃は、夜になるとクライアントや広告代理店の担当とすすきのに繰り出して「接待」の毎晩だった。安スナックの乾き物セットに入ったキスチョコとウィスキーの水割り。酒と甘いものの組み合わせと言われて、このくらいのことしか思い浮かばなかった、それどころか酒を飲むこと=接待=苦痛だった20代におさらばできて、つくづく良かったと思う。
(蛇足とは思いつつ、「左党」とは酒飲みのこと。大工や坑夫が左手に鑿を、右手に槌を持つことから、左手=鑿手=飲み手という語呂合わせによって生まれた言葉)
(2018年12月25日)
次回「酒に訊け。」