007
チェンマイ料理と酒。
例年11月から3月の間のどこかで、タイ北部のチェンマイに行く。目的は食事だと断言してもいいくらい、今日はどの店で何を食べるかを決めることが最優先で、そこから1日のスケジュールを組んでいる。
ところで、一般的によく知られているタイ料理、例えば「トム・ヤム・クン」や「パッ・タイ」や「ゲーン・キョウワン」は、首都バンコクを中心にしたタイ南部の料理で、チェンマイでは観光客相手の店以外ではあまり見かけない。ましてや屋台や食堂で食べることを好むぼくが選ぶ店には、ほとんどないと言ってもいいと思う。
では、何を食べているかというと、スープなら「ジョー・パッカー」であり、カレーならば「ゲーン・ハンレー」であり、そして大好物は「ガイヤーン」という地鶏の炭火焼とか「ムートッド」という豚の素揚げなどである。どれも美味しいし、よほどの高級店やホテルではないかぎり驚くほど値段が安い。そして必ず酒が飲みたくなる。
さて、ここからが問題だ。チェンマイで酒というと、まずはビールである。でも、ぼくはビールを好まない。「あれは学生気分がいつまでも抜けない人間が飲むもの」と憎まれ口をたたくほどに興味がないし、そもそも食事に合う酒なのだろうかと首をひねりたくなる。ところがビール以外の酒を探しても、ワインは高級店に行かなければ置いていないし、グラス1杯分の値段で食堂ならば2回は満腹になれるほど高い。もしかしたら、この街には酒を飲みながら食事をするという習慣がないのだろうか。
よく見かけるのはタイ・ウィスキーだ。「メコン」とか「セーン・ソム」などがよく知られているようだが、たまたま泊まったホテルに置いてあった「セーン・ソム」のラベルを見ると、どうやらこれはウィスキーではなくラム酒らしい。タイ・ウィスキーと呼ばれてはいるものの、原料は米だったりサトウキビだったりするから、分類的にはラム酒ということになるのだろう。ラム酒が食事に合うかどうか、経験がないのでわからないけれど、自分が想像するかぎりはチェンマイ料理と相性がいいと思えない。
やっぱり欲しいのは赤ワインだ。同じことを考えるチェンマイ・リピーターの友人が、日本から赤ワインを何度か持ち込んで試すうちに、「ハーブたっぷりでスパイスのパンチが効いたチェンマイ料理には、南仏のシャバい赤がいい」という結論に達した。
実は先週までチェンマイに滞在していた。別の友人たちも一緒だった。そのうちのひとりが、この「シャバい赤」理論を発見した友人の助言を受けて持ってきた赤ワインが、本当に素晴らしかった。いままでワインなしでもあんなに美味しいと思っていた料理は、ワインによってさらに磨きがかかり、忘れられない鮮烈な体験となったのだ。「チェンマイ料理には箱セウル」というのが、ワインとチェンマイ料理が好きな者ならば、絶対に忘れてはならない教訓である。
(2018年3月29日)
次回「酒に訊け。」